目次
はじめに
サーブのスピードが出なくなった。フォアハンドで打ちにいっても、以前のようにボールが入らない。左右に振られたあとの切り返しが遅れ、試合の後半になるほど足が止まる。
ランキングを上げていた頃には考えもしなかった変化を、競技を続けていると感じる時期があります。
これはテニスに限った話ではありません。サッカーでも野球でも、種目を問わず「以前とは動きが違う」と感じる場面は起こります。
そのとき、周囲からも、自分の中からも、同じ言葉が出てきます。「もう年齢だから仕方がない」
もちろん、年齢を重ねれば身体は変化します。筋力やパワー、持久力といった競技パフォーマンスに関わる身体機能が加齢とともに低下することは、これまでの研究でも報告されています。ただ、いま感じているパフォーマンスの変化を、すべて加齢だけで説明してよいのでしょうか。
同じ年齢、同じ競技歴でも、落ち方は選手によってまったく違います。30代半ばでもトップレベルを維持している選手がいる一方で、20代後半で急に「動けなくなった」と感じる選手もいます。
HURECでは、この差を見るとき、年齢そのものだけでなく、「一番結果が出ていた頃と比べて、その選手自身の動きが変わっていないか」に着目します。そして、その動きの変化を見るうえで大切になるのが、骨格の個体差です。選手によって骨格が違えば、その選手にとって自然な姿勢や動き方も違います。
HURECでは、競技を続ける中で自分の骨格に合っていた動きからずれてしまい、加齢による低下以上にパフォーマンスを落としているケースがあるのではないかと考えています。
この記事では、加齢による身体機能の変化を整理したうえで、HURECが研究してきた「骨格の個体差」と「動きの変化」という視点から考えていきます。

この記事の要点
- 加齢によって、筋力やパワーなど身体的に低下する部分はあります。
- ただし、パフォーマンスの低下の仕方は全員同じではありません。
- HURECでは、若い頃と比べて「その人に合った動き」からずれていないかにも着目します。
- 骨格が違えば、その人にとって自然な姿勢や動き方も異なると考えています。
- 新しい動きを身につけるだけでなく、自分に合っていた動きへ「戻る」ことも一つの方法です。
加齢とともに競技パフォーマンスはどう変わるのか
年齢による身体機能の変化
競技パフォーマンスのピークとなる年齢は、競技によって異なります。エリート選手を対象にピーク年齢を整理した研究では、瞬発力が大きく求められる競技、持久力が求められる競技、技術的な要素が大きい競技で、トップパフォーマンスを発揮する年代が違うことが示されています。その後の身体機能の変化についても、競技を長く続ける選手を対象とした研究で報告されています。
ただし、低下の仕方は全員同じではない
一方で、各競技のトップレベルには、ピークとされる年齢を過ぎてもなお第一線で結果を出し続けている選手がいます。同じ年齢で引退を考える選手もいれば、その年齢からキャリアハイを更新する選手もいる。つまり「年齢を重ねた=大きくパフォーマンスが落ちる」と一律には言えません。
では、この差をどのように考えればよいのでしょうか。
HURECでは、年齢だけを見るのではなく、その人の骨格に合った自然な動きという個体差の視点から、全盛期と現在で動きがどのように変わっているかを見ていきます。
ここからは、HURECの研究チームに話を聞いていきます。
HURECの研究チームに聞いてみた「加齢とともにパフォーマンスが落ちていく本当の理由」
編集部
まず前提として、年齢を重ねれば身体的なパフォーマンスが低下していくこと自体は避けられないのでしょうか。
研究チーム
加齢っていうのは、当然、下り坂だと思うんですね。
これは私も何の異論もないです。身体的な意味では、登り坂ではないと思います。
もちろん、人間的な成長や技術的な部分は別ですが、年齢を重ねるごとに少しずつ落ちていく要素はあると思います。
ただ、その下り坂は、多くのアスリートが思っているより、本来かなり緩やかな下り坂のはずなんじゃないかなという思いがあります。
実際には、本来的な生物的な下り坂よりも、かなり急角度でパフォーマンスが落ちてしまっている人もいるのではないか。
一般の方だけではなく、アスリートでさえ、そういうことはあると思っています。
編集部
つまりHURECでは、急激にパフォーマンスが落ちたときに、すべてを「年齢だから」とは考えないということでしょうか。
研究チーム
そうですね。
私たちが一番気になるのは、やっぱり動きなんですね。
たとえば、自分が20代の頃を全盛期だったとします。
その頃の動きと今の動きを比べてみると、かなり変わってしまっている方がいます。
これは単純に、「若い頃よりスピードが落ちた」「昔より躍動感がなくなった」という話だけではありません。
動くメカニズム自体、動きの特徴自体が変わってしまっている。
ここを見ています。
ですから、単純な「低下」というより、まずは「動きが変化している」と捉えた方が近いケースがあります。
もちろん、良い方向へ変化している場合もあります。
一方で、その人にとって合わない方向へ動きが変わってしまっているケースもあると考えています。
編集部
ここでいう「その人に合う・合わない」というのが、骨格の個体差につながるのでしょうか。
研究チーム
そうですね。
私たちは長年、骨格の個体差を研究してきました。
人によって骨格が違えば、その骨格にとって自然な姿勢や歩き方、動き方も違うと考えています。
HURECでは現在、その違いを16種類の骨格動作タイプに分類しています。
「この競技では、この動きが正しい」というものが、そのまま全員に当てはまるとは考えていません。
同じ競技をしていても、その人の骨格によって自然な動きは違う。
だから私たちは、年齢とともにパフォーマンスが落ちてきた選手を見るときも、「今の動きが、その人自身の骨格に合っているのか」という視点を持っています。
編集部
では、若い頃は自分の骨格に合った動きをしていた人が、競技を続ける中で合わない動きに変わってしまうことがあるのでしょうか。
研究チーム
あると思っています。
いろいろなアスリートを見てきた中で感じるのは、20代など全盛期だった頃の方が、その人の骨格にとって自然な動きをしていることが多いということです。
10代、20代で大きく伸びている時期って、基本的に前しか見ていないと思うんです。
去年より今年の方が強い。
出ている大会のレベルも上がる。
対戦相手もどんどん強くなる。
そういう時期に、「今、自分が進んでいる道は間違っているんじゃないか」と疑うことは、あまりないと思うんですよね。
もちろん、その途中で怪我をしたり、負けたりすることはあります。
それでも、結果を出しながらステージを上がってきているので、その頃は自分の動き自体をあまり疑っていないことが多いと思います。
編集部
では、そこからなぜ動きが変わっていくのでしょうか。
研究チーム
パフォーマンスが頭打ちになったとき。
大きな試合で負けたとき。
怪我をしたとき。
そういうタイミングで、自分の動きを見直し始めることがあります。
「もっとこう動いた方がいいんじゃないか」
「トップ選手はこういうフォームをしている」
「一般的には、この動きが良いと言われている」
そうやって知識を増やしたり、人の意見を取り入れたりする。
それ自体が悪いわけではありません。
問題は、その中に自分自身の骨格には合わない動きが含まれている場合があるということです。
自分にとって自然だった動きよりも、その競技で一般的に「良い」と言われる動きへ近づけようとする。
その結果、もともと自分に合っていた動きを崩してしまうことがあります。

編集部
つまり、「年齢で動けなくなった」のではなく、「年齢を重ねる過程で、自分に合わない動きへ変わった」部分もあり得るということでしょうか。
研究チーム
そういうことです。
そこを分けて考えることが大切だと思っています。
年齢によって身体的に落ちていく部分は当然あります。
そこを否定するつもりはありません。
ただ、そこに、自分の骨格に合っていた動きからずれてしまったことによるパフォーマンス低下が重なっている場合があります。
この2つを全部まとめて、「もう年齢だから仕方がない」としてしまうと、本来見直せる部分まで年齢のせいにしてしまうことになります。
編集部
自分に合わない動きへ変わると、パフォーマンスはどのように変わるのでしょうか。
研究チーム
自分に合わない動きへ少しずつずれていくことで、パフォーマンスがカクンと落ちてしまうことがあります。
本人としては、「年齢とともに一気に下り坂を落ちてしまった」ように感じる。
でも、私たちから見ると、年齢による緩やかな低下だけではなく、動き自体が大きく変わっていることがあります。
逆に言えば、もう一回動きを戻せば、すっと戻ることもあります。
もちろん、全盛期より少し低い部分は、確かに加齢によるものかもしれません。
すべてが若い頃と同じになると言っているわけではありません。
ただ、「ここまで全部、年齢で落ちたと思っていたけれど、実際には自分に合わない動きへずれていた部分もあった」ということはあり得ると考えています。
編集部
では、ベテランのアスリートがまず確認すべきなのは、「新しいフォームを探すこと」ではないということでしょうか。
研究チーム
そうですね。
まずは、今の動きと、自分が高いパフォーマンスを発揮していた頃の動きを見比べてみることだと思います。
実は、このずれに気づくことって、進んでいくことというより、むしろ戻ることとも言えると思います。
プロやトップレベルまで到達したアスリートであれば、競技人生の中に、自分の骨格と動きがかなり合っていた時期がある可能性が高いと考えています。
だから、新しい「正しいフォーム」を探し続けるだけではなく、自分が一番パフォーマンスを出せていた頃に、どのように動いていたのか。そして、その動きが、自分の骨格にとってどのような意味を持っていたのか。そこを見直してみる。
そのうえで、自分に合っていた動きへ戻していく。
あるいは、その頃以上に自分の骨格に合った動きを理解していく。
それが、ベテランアスリートがパフォーマンスを見直すうえで、一つの方法になると考えています。

「年齢だから」で終わらせず、自分の動きも見直す
年齢を重ねれば、身体的に低下する部分はあります。
HURECでも、加齢そのものを否定しているわけではありません。
一方で、パフォーマンスが大きく落ちたとき、そのすべてを加齢だけで説明できるとは限らないと考えています。
重要なのは、
「年齢によって何が変わったのか」
だけでなく、
「自分自身の動きが、若い頃からどう変わったのか」
を見ることです。
そして、その動きが、
今の自分の骨格に合っているのか。
HURECでは、ここを確認していきます。
競技を長く続ける中で、知識や経験が増えることは大きな財産です。
ただ、その中で一般的に良いと言われるフォームを取り入れ、自分にとって自然だった動きからずれていることもあります。
新しい正解を探し続けるだけではなく、
自分にとって自然だった動きへ、もう一度戻ってみる。
それも、長く競技を続けるアスリートにとって一つの方法だとHURECでは考えています。
※短期間で急にパフォーマンスが落ちた場合や、疲れが抜けない、息切れ・動悸がある、意図せず体重が減っている場合は、動きの問題と決めつけず、まず医療機関を受診し、血液検査など必要な検査について相談してください。

まずは、自分の骨格のタイプを
知るところから
「以前のように動けない」「年齢とともにパフォーマンスが落ちた」。今感じている悩みや、これまでの取り組みをうかがい、リスタートで何ができるかをお伝えします。
よくある質問
Q以前より動けなくなったと感じたとき、何を見直せばよいのでしょうか?
Aまず、パフォーマンスが高かった頃と今の動きを見比べることが大切です。スピードや筋力の低下だけでなく、姿勢や動き方の特徴が変わり、自分の骨格に合った自然な動きからずれていないかにも目を向ける必要があります。
Q他の選手のフォームを参考にしてもよいのでしょうか?
A他の選手のフォームを、そのまま自分に当てはめることには注意が必要です。骨格が違えば自然な動き方も異なるため、参考にする場合も、自分の骨格に合った形で動けているかを確認することが大切です。アスリート再生プログラム「リスタート」では、骨格動作タイプを判別し、現在の動きがその人の骨格に合っているかを確認していきます。
Q競技を続けるうちに、なぜ自分に合わない動きへ変わることがあるのでしょうか?
AHURECでは、けがや成績の停滞をきっかけにフォームを見直すことが、一つの転機になると考えています。一般的に良いとされる動きや他の選手のフォームを取り入れる過程で、以前の自分にとって自然だった動きから離れていく場合があります。
監修・執筆

医療監修:高村 武光
鍼灸師/連動性シニアトレーナー
高校時代に腰椎分離症を経験し、リハビリをきっかけに医療の道へ。森ノ宮医療大学で鍼灸師(国家資格)を取得。サッカー・ソフトボール・テニス・パデルなど複数競技の日本代表を含むアスリートのトレーナーとして活動する一方、変形性股関節症・膝関節症など高齢者の症状にも対応。骨格の個体差にもとづく“連動性トレーニング”を修め、現行最上位資格「連動性シニアトレーナー」に認定される。医療専門職の育成も行う。

研究監修:伊藤 龍平
株式会社HUREC 代表取締役
医師・理学療法士・鍼灸師、トップアスリート指導者など身体の専門家で構成される研究団体HURECを組織し、10年以上にわたり骨格の個体差(先天的特質)を研究。その研究から「骨格動作タイプ」を16種類に体系化。各種競技のオリンピックアスリート、日本代表選手などからも多くの支持を受ける。

医学監修:烏山 司
スポーツ内科医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター
スポーツドクターとしてアスリートの内科的サポートに従事し、株式会社HURECの医学顧問を務める。自身も高校時代にソフトテニスでインターハイに出場するなど、スポーツに高い関心を持つ。フルマラソンは2時間34分(市民ランナー上位0.5%)で完走。
出典
研究資料
1. Allen SV, Hopkins WG. Age of Peak Competitive Performance of Elite Athletes: A Systematic Review. Sports Med. 2015;45(10):1431-1441.
2. Tanaka H, Seals DR. Endurance exercise performance in Masters athletes: age-associated changes and underlying physiological mechanisms. J Physiol. 2008;586(1):55-63.
3. McKendry J, et al. Muscle morphology and performance in master athletes: A systematic review and meta-analyses. Ageing Res Rev. 2018;45:62-82.
4. Borges N, Reaburn P, Driller M, Argus C. Age-Related Changes in Performance and Recovery Kinetics in Masters Athletes: A Narrative Review. J Aging Phys Act. 2016;24(1):149-157.
HUREC資料
HURECアスリートチャンネル「加齢とともにパフォーマンスが落ちていく本当の理由」

