心理・身体・技術・環境から、コンディションを考える
目次
はじめに
「良い時の動きを再現できない」「不調が続き、思うようなパフォーマンスを出せない」。競技を続ける中で、こうした動きの再現性や、不調の波に悩むことがあります。
アスリートも、いつも好調でいられるわけではありません。それは、世界のトップで戦う選手でも例外ではないと思います。一方で、高いパフォーマンスを安定して出し続ける選手は、不調の波が下がる場面を、ある程度減らせているのではないでしょうか。
私たちは、アスリートのコンディションに影響する要因を「心理的・身体的・技術的・環境的」の4つに分けて考えています。
すべてをコントロールしようとするのではなく、自分が取り組めるところに目を向ける。この記事では、4つの要因を整理したうえで、私たちが専門とする骨格の個体差と動きの関係から、不調の波について考えていきます。
この記事の要点
- 不調を、心理的・身体的・技術的・環境的な要因に分けて考える。
- 4つの要因すべてを、自分でコントロールすることは難しい。
- 私たちが着目するのは、身体的な要因の中でも「自分の骨格に合った動き」。
- 身体と動きが整うことは、心や技術、外的な環境に向き合う余裕にもつながると考える。
アスリートの不調を、一つの要因だけで考えない
私たちは、こうしたコンディションの変化を考えるときに、次の4つの要因に分けて見ています。
心理的な要因
心理的な要因とは、心の状態や精神的な疲労などです。サッカーやバスケットボールなどを対象にした研究では、精神的な疲労が技術や判断に影響したことが報告されています。[1]
私たちは、体の状態が悪いと心も引っ張られることがあると考えています。心理面だけを切り離さず、身体の状態との関係にも目を向けます。
身体的な要因
身体的な要因とは、体調や疲労、回復、体の動きなどです。同じ練習や試合の負荷でも、反応や回復の仕方には個人差があるとされています。[2]
私たちは、ここに「体の動き」という視点を加えています。その動きが自分の骨格に合っているかどうかも、身体のコンディションを考えるうえで大切にしています。
技術的な要因
技術的な要因とは、競技の技術や、その習得・修正に関わるものです。技術的な課題に意識的に取り組む時には、一時的にパフォーマンスが下がることもあると思います。私たちは、自分の体に合う技術を、自然に再現できる状態に着目しています。
動作の研究でも、全員が一つの理想の型を目指すのではなく、選手自身の特徴や課題、環境に応じた動きを考える視点が示されています。[3]
環境的な要因
環境的な要因とは、気温や湿度、対戦相手、地面やコートの種類、遠征による時差など、競技をする条件のことです。動作の研究では、変わる環境に応じて動きを調整することも、熟練したパフォーマンスの一部と考えられています。[3]
私たちは、すべてを自分で変えようとするよりも、取り組める部分を整え、外的な条件に対処する余裕を持つことが大切だと考えています。
この4つは、それぞれが切り離されているわけではありません。私たちは、その中でも身体の動きに着目しています。ここからは、自分に合った動きを知ることが、心や技術、環境への対処とどうつながるのかをお話しします。
編集部が聞く、アスリートの不調に対する研究チームの考え方
編集部
アスリートの好調・不調の波を、どのように捉えていますか。
研究チーム
アスリートの皆さんも生き物ですから、当然、あらゆるタイミングで好調というわけにはいかず、不調に陥ることもあると思います。それは世界ナンバーワンのアスリートでさえ、例外ではないと思います。
しかし、安定的に高いパフォーマンスを出し続けるような、トップオブトップのアスリート、安定感のあるアスリートは、この不調の波をある程度自分でハンドリングしたり、波が下がる場面をできるだけ減らしたりすることが、やっぱりできる人なのではないかなと思います。
編集部
コンディショニングに影響する要因とは何でしょうか。
研究チーム
そもそも、不調も好調もそうですけれども、アスリートのコンディションに影響を与えるものには、4つの要因があると思います。一つは心理的な要因、二つ目が身体的な要因、三つ目が技術的な要因、四つ目が環境的な要因です。
まず心理的な要因。人間は生き物ですから、心のコンディションは、あらゆるパフォーマンスに影響を及ぼすと思います。
身体的な要因はさまざまあります。単純な体調や疲労状態もそうですし、私たちが専門とする体の動きのメカニズムが、その人の骨格の個体差にうまく合っている時と、外れている時によって、パフォーマンスが大きく変わるということもあります。
技術的なところでいうと、何かしら技術的な課題に意識的に取り組んでいる時は、多くの場合、パフォーマンスが下がったりすると思います。無意識的にできるような状態、自然に動けるような状態になると、安定しやすかったりすると思いますよね。
環境的な要因は、むしろ一番コントロールできない要因になってくるかと思います。気温や湿度、対戦相手、競技によってはサーフェス、つまり地面がどんなコンディションなのか。テニスだったら、ハードコート、クレーコート、芝のコートという種類の違いもあります。ツアーが多い競技なら時差ボケもありますし、そういった環境的な、あらゆる要因があると思います。
編集部
不調が続く場合、まず何から取り組めばよいですか。
研究チーム
すべてを自分でコントロールすることはできないと思うんですよね。アスリートに限ったことではなく、今の4つすべてをハンドリングできている人なんて、この世に一人もいないのではないかなと思います。
そんな中でも、自分がコントロールできるとしたら、どれなんだろう、というところになってくるわけですよね。コントロールできるものに集中し、コントロールできないものは、ある程度手放していくということだと思います。
私たちの専門領域の中で、コントロールしやすいものは何かというと、身体的な要因だと思っています。その中でも特に、動きのメカニズム、この「動き」は、比較的、習慣や学びでかなりコントロールできると思うんですよね。

編集部
その「動き」は、どのような視点で見直していくのでしょうか。
研究チーム
私たちが専門とする骨格の個体差は、人は生まれながらにして骨格が異なっている、というところから考えています。今、16タイプに大きく分類していますけれども、タイプごとに一番自然な姿勢や歩き方、動き方は違うという研究領域です。
自分にとって自然な姿勢はこうだな、自然な歩き方や動き方、自分の競技におけるフォームはこういうものが一番自然なんだな、ということをある程度知っていて、それを再現性高く競技の中で実行できる状態だとします。
基本的には自分にとって一番自然な動きですから、高いレベルでパフォーマンスを安定させることにつながると思います。負荷が、例えば膝や腰、肩などに集まりづらくなり、どこかが極度に疲労したり、怪我をしたりすることを減らす方向につながると考えています。
絶対に怪我をしないわけではないですよ。スポーツは過酷な環境ですから。ただ、自分の骨格に合った自然な動きによって、怪我をしづらくなるのではないかと思うんですよね。
さらに、自分の体のコンディションをうまく保てるような食事、睡眠、眠る時の環境も、ある程度コントロールしていく。そうすると体の状態は、その4つの中でかなりハンドルを握りやすくなると思います。

編集部
体の状態は、心理的な要因や技術的な要因とどう関わっていますか。
研究チーム
体のコンディション、動きの状態がいい状態を保ち続けられると、心も安定しやすいと思います。インフルエンザの時にポジティブになれないのと一緒ですけれども、体のコンディションが悪いと、基本的には心も引っ張られると思うんですよね。
逆に、体のコンディションや動きのコンディションがはまっている状態で、常にいい状態で動ければ、心は安定しやすいと思います。
かつ、自分の骨格に合った動きで体が動けていると、技術的な再現性も非常に高くなると思うんですよね。自分にとって一番しっくりくる姿勢、一番自然に動けるフォームが再現できるわけですから、いい技術を常に出し続けられるというか。ここでいう技術は、自分の体に合っているものということですよね。そうすると、ここもハンドリングが効くわけです。

編集部
環境的な要因には、どのように向き合えばよいのでしょうか。
研究チーム
環境的な要因は、4つの中でも自分でコントロールしにくい領域だと思います。気温や湿度、競技する場所や対戦相手などは、自分の意思で変えられるものではないですよね。だからこそ、まずは身体や動きなど、自分でハンドリングしやすい部分を押さえておく。そのことが、心や技術の安定にもつながると考えています。そうすると、変わっていく環境や外的要因への対処に集中しやすくなるんですよ。例えば、今日は違う国で試合だな、今日は暑いな、寒いな、といった条件に、余裕を持って向き合っていくということです。
全く波が起きないということはないと思いますけれども、かなり小さめの波になったり、高い水準での波になったりすると思います。
トップオブトップのアスリートは、身体の部分のハンドリングが効いているから、心と技術のハンドリングも結果的に効いて、外的要因に余裕を持って対処できる。基本的には不調に陥りづらく、好調でい続けられる。トップアスリートと仕事をする中で、こういう状態なのではないかと感じています。

編集部
良い時の動きを再現できず、不調が続く人には、何を伝えたいですか。
研究チーム
逆に、私たちが見てきた中で、いつも自分にはまった動きができない、自分にとって自然な動きや、いい感覚がたまにしか出ないとなると、しっくりこないので心も引っ張られる。技術も安定せず、環境や外的要因に意識を割く余裕もない。だから、不調がすごい波になってしまう。こういうこともよくあります。
体の動きというところで、自分の骨格に合ったものをしっかり押さえることで解決しそうだな、だいぶ変わりそうだな、と思う方は、ぜひお問い合わせいただけたらと思います。お力になれると思います。
自分で取り組める「動き」から見直す
すべての要因をコントロールしようとするのではなく、自分で取り組める部分から見直す。私たちは、その一つとして、自分の骨格に合った動きを知り、再現できる状態を目指すことを提案しています。

まずは、自分の骨格のタイプを
知るところから
「不調の波が大きい」「良い感覚がなかなか続かない」。今感じている悩みや、これまでの取り組みをうかがい、リスタートで何ができるかをお伝えします。
よくある質問
不調になる原因には、どのようなものがありますか。
私たちは、アスリートの不調に関わる要因を、心理的・身体的・技術的・環境的な4つに分けて考えています。心の状態、体調や疲労、技術的な課題への取り組み、気温や対戦相手などが含まれます。これらは一つずつ独立しているのではなく、さまざまな要因が絡み合って、不調につながると考えています。身体的な要因を考えるときには、骨格の個体差と動きの関係も一つの視点になります。自分に合った姿勢や歩き方、競技のフォームがどのようなものかを知り、現在の動きと照らし合わせていきます。
自分の骨格に合った動きを知れば、不調はなくなりますか。
不調が完全になくなるわけではありません。体調や疲労、心理面、競技環境なども関わります。私たちは、自分の骨格に合った自然な動きを知り、競技の中で再現できるように取り組むことが、不調の波を小さくする一つの方法になると考えています。
ただし、休養をとっても不調が長く続く場合は、貧血やエネルギー不足など、医学的な評価が必要な状態が隠れていることがあります。まず医療機関でご確認ください。
調子が良い時の動きを安定して再現できません。どこから見直せばよいですか。
良い時の感覚を再現できない理由は、体調や疲労、心理面、技術、競技環境などさまざまで、動きだけで説明できるものではありません。
その中で私たちが着目するのは、一人ひとりの骨格や動きの個体差です。良い時の感覚を取り戻そうとするだけでなく、自分にとって自然な動きができているかを見直すことも大切だと考えています。
監修・執筆

医療監修:高村 武光
鍼灸師/連動性シニアトレーナー
高校時代に腰椎分離症を経験し、リハビリをきっかけに医療の道へ。森ノ宮医療大学で鍼灸師(国家資格)を取得。サッカー・ソフトボール・テニス・パデルなど複数競技の日本代表を含むアスリートのトレーナーとして活動する一方、変形性股関節症・膝関節症など高齢者の症状にも対応。骨格の個体差にもとづく“連動性トレーニング”を修め、現行最上位資格「連動性シニアトレーナー」に認定される。医療専門職の育成も行う。

研究監修:伊藤 龍平
株式会社HUREC 代表取締役
医師・理学療法士・鍼灸師、トップアスリート指導者など身体の専門家で構成される研究団体HURECを組織し、10年以上にわたり骨格の個体差(先天的特質)を研究。その研究から「骨格動作タイプ」を16種類に体系化。各種競技のオリンピックアスリート、日本代表選手などからも多くの支持を受ける。

医学監修:烏山 司
スポーツ内科医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター
スポーツドクターとしてアスリートの内科的サポートに従事し、株式会社HURECの医学顧問を務める。自身も高校時代にソフトテニスでインターハイに出場するなど、スポーツに高い関心を持つ。フルマラソンは2時間34分(市民ランナー上位0.5%)で完走。
参考資料
[1] Sun H, et al. Does mental fatigue affect skilled performance in athletes? A systematic review. PLoS ONE. 2021;16(10):e0258307.
[2] Kellmann M, et al. Recovery and Performance in Sport: Consensus Statement. Int J Sports Physiol Perform. 2018;13(2):240-245.
[3] Seifert L, Button C, Davids K. Key properties of expert movement systems in sport: an ecological dynamics perspective. Sports Med. 2013;43(3):167-178.

