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良い時の感覚が取り戻せない理由

2026.9.10

― 全員に合う正解ではなく、自分に合った正解へ ―

はじめに

何をしても思ったとおりに体が動く。狙ったところへボールを運べる。地面からの反発をしっかりともらえ、体が軽く、滑らかに動く。

長く競技を続けてきたアスリートであれば、キャリアの中で一度は、そうした「良い時の感覚」を経験しているのではないでしょうか。

その感覚であれば、もっと上のステージでも戦える。そう思えるほどの身体の状態を知っているのに、同じ感覚をなかなか取り戻せない。フォームやトレーニングを見直しても、以前のようにはまらない。長く競技を続けるなかで、こうした悩みを抱える選手は少なくありません。

良い時の感覚を取り戻せない背景には、さまざまな要因が関係しています。この記事では、競技パフォーマンスの変動や、疲労・回復、動作のばらつきに関する研究知見を整理したうえで、HURECが重視する「個体差」という視点から考えていきます。

この記事の要点

  • 同じ選手でも、競技パフォーマンスは試合や日によって変動します。疲労、回復、心理状態、環境、競技特性など、複数の要因が関係します。
  • HURECでは、全員に合う一つの正解ではなく、その人に合うフォームやトレーニングがあると考えています。
  • 自分の感覚に加えて、ボールの質やタイム、出力に関する数値など、競技に応じた指標も判断材料にしながら、自分に合う方法を選んでいくことが大切です。
  • HURECでは、自分の骨格動作タイプと、それに合った自然な姿勢・動きを知ることが、良い時の感覚を取り戻すための一つの手がかりになると考えています。

良い時の感覚が再現できないときに考えられる一般的な要因

競技パフォーマンスは日によって変わる

競技の結果は、同じ選手であっても毎回まったく同じにはなりません。

トップレベルの選手を対象に、試合ごとのパフォーマンスの変動を調べた研究では、変動の大きさは競技によって異なり、パワー、技術、競技環境、採点方法などが関係すると整理されています。[1]

つまり、良い感覚を再現できない理由を、単純に「技術が落ちた」「集中力が足りない」と一つに決めることはできません。

疲労と回復

競技現場では、トレーニングや試合による負荷と、そこからの回復のバランスが重視されています。

身体的な疲労だけでなく、睡眠、移動、日常生活の負担なども、その日の状態に影響します。心理的な疲労が競技パフォーマンスに関わる可能性も報告されています。[5]

回復と競技パフォーマンスに関する専門家の見解をまとめた文書でも、選手によって反応が異なることを踏まえ、複数の状態を継続して見る必要があるとされています。[2]

ただし、休養を取れば必ず以前の感覚に戻る、というほど単純ではありません。十分に休んで体調が整っていても、動きがはまらないことはあります。

動作のばらつき

スポーツの動きには、相手、ボール、地面、天候、時間的な制約など、常に変化があります。そのため、同じ結果を出すために、体の動きが毎回わずかに変わることは珍しくありません。

スポーツにおける動作の研究でも、動きのばらつきは、すべてが修正すべき誤差とは限らないと考えられています。状況に応じて動きを調整することが、熟練したパフォーマンスの一部になる場合があるためです。[3][4]

では、状況が変わっても、自分にとって良い動きを引き出せる選手と、条件がそろった時だけ良い感覚が出る選手では、何が違うのでしょうか。

ここからは、HURECが研究してきた骨格の個体差という視点から考えていきます。

骨格の個体差から考える「良い時の感覚が取り戻せない理由」

編集部

ここからは、HURECの研究チームに「良い時の感覚が取り戻せない理由」というテーマでお話を伺います。よろしくお願いします。まず、アスリートが経験する「良い時の感覚」とは、どのような状態なのでしょうか。

研究チーム

競技レベルにかかわらず、長く競技を続けてきたアスリートであれば、良い時、全盛期と言ってもよい状態を、キャリアの中で経験されていると思います。

何でも思ったとおりに動く。狙ったところへボールが飛ぶ。狙ったところへ投げられる。ランナーであれば、「地面を踏んだ時に反発を強くもらえる」「体が軽く、滑らかに動く」など、人によってさまざまな良い感覚があります。

そうした本当に良い状態です。

ところが、その状態を再現し続けられる人と、なかなか再現できない人がいます。いつも再現できる選手は少数で、トップアスリートの中でも限られてくるように思います。

再現できない選手であっても、「あの時の感覚であれば、もっと上のステージで戦える。通用する」という実感は持っているはずです。それでも、同じ状態を出せない。ここに大きな悩みがあります。

編集部

良い時の感覚を再現できる選手と、できない選手。その違いはどこにあるのでしょうか。

研究チーム

まず一つは、考え方にあるのではないかと感じています。

私たちは、さまざまなトップアスリートや、その周りで支える方々と仕事をしてきました。その中で感じるのは、再現性の高い選手ほど、「自分に合った正解はあるけれど、全員に合う正解はない」という考え方を強く持っていることです。

言い方を変えると、全員に共通する良いフォームがあるのではなく、私に合ったフォームがある。誰にとっても最高のトレーニングがあるのではなく、私に合ったトレーニングがある、ということです。

良いフォームや良いトレーニングを探すのではなく、「これは自分に合うか、合わないか」という基準で選んでいます。

編集部

なぜ、全員に合うフォームやトレーニングはないと考えるのでしょうか。

研究チーム

私たちは、骨格の個体差を長年研究してきました。

HURECでは、骨の長さ、太さ、重さなどには多少の変化があっても、骨格の基本的な特徴は自分の意思で大きく変えにくいと考えています。

骨格は、最初に配られたカードのようなものです。その手札で競技人生を戦っていくことになります。

AさんとBさんで骨格が違えば、その人にとって自然な姿勢、自然な歩き方、負担のかかりにくいフォーム、出力を発揮しやすいフォームも変わると、HURECでは考えています。

同じ競技、同じ種目のトップ選手であっても、動き方は一人ひとり違います。全員が同じ動きをしていないこと自体が、答えは一つではないことを示しているのではないでしょうか。

だからこそ、一般に良いとされるフォームを、そのまま全員へ当てはめるのではなく、自分に合うかどうかを見ていく必要があります。

編集部

ただ、「自分にはこれが合う」という感覚だけで選ぶと、単なる好みやこだわりになってしまうこともあるのではないでしょうか。

研究チーム

そのとおりです。だからこそ大切なのは、自分の感覚だけで決めるのではなく、競技のパフォーマンスに直結する指標で確かめることです。

たとえばテニスであれば、どのようなボールが飛んでいるのか。陸上競技であれば、タイムがどう変わったのか。出力が重要な競技であれば、そのパフォーマンスに関わる数値がどうなっているのか。

競技ごとの適切な指標にアンテナを向けながら、自分に合うものと合わないものを取捨選択します。

そうすることで、「今日は良かった」「今日は悪かった」で終わるのではなく、何を選ぶと自分の良い状態へ近づくのかを考えるための材料になります。私たちは、そのような選手ほど、良い動きの再現性が高いように感じています。

編集部

一方で、良い時の感覚をなかなか再現できない選手には、どのようなことが起きているのでしょうか。

研究チーム

自分に合った動きが出た理由をつかめないまま、体調や、その時に意識したこと、相手や環境の条件が偶然うまく合った時だけ、良い状態が出ている場合があります。

特に、私たちが長く関わってきたテニスでは、相手のボールにも違いがあります。高く跳ねるボール、あまり跳ねないボール、速いボール、遅いボールがあります。

たとえば、打点が後ろにあるほうが自分に合う選手であれば、少し差し込まれる場面が多くなる相手と対戦した時に、良い感覚で打てることがあります。

この場合、自分で意識して打点を調整したのではなく、相手のボールによって、自然と自分に合う打点で打てていたということです。その結果、良い感覚が出ていたと考えられます。

しかし、それでは相手や環境が変わった時に、良い時の感覚を再現しにくくなってしまいます。

私たちが関わってきたトップ・オブ・トップのアスリートには、どのような場面でも、自分に最も合う形、自分が力を発揮しやすい形へ持っていこうとする思考を持つ方が多いように感じます。

環境が自分に合うのを待つのではなく、自分から、自分に合う姿勢や動きへ戻していくということです。

編集部

自分に合う形を知り、どのような場面でも再現していくために、何が必要になるのでしょうか。

研究チーム

私たちは、その一つが、自分の「骨格の個体差」を知ることだと考えています。

HURECでは現在、骨格の個体差を16種類の骨格動作タイプに分類しています。

自分の骨格動作タイプを知り、そのタイプにとって自然な姿勢や動きを知る。それによって、場面が変わっても、自分に最も合う姿勢や動きへ戻していくという考え方を持ちやすくなります。

全員に共通する正解を追うのではなく、自分にとって何が合うのかを知り、競技の指標で確かめながら選んでいく。

それが、良い動きを再現し続けるための一つの手がかりになるのではないかと考えています。

編集部より|リスタートで行っていること

アスリート向けの再生プログラム「リスタート」では、撮影と実際の動きを照らし合わせながら、骨格動作タイプを仮判別し、競技動作の分析を進めます。判別は一度で確定させず、経過を見ながら確かめていきます。そのうえで、その選手専用のウォーミングアップ・トレーニング・ケアを組み立て、専属トレーナーが6か月間伴走し、指導者とも方針を共有します。必要に応じて、スポーツ内科医・理学療法士・鍼灸師のチームが後ろにつきます。

体には今の状態を保とうとする働きがあり、一度や二度その場で整えても、すぐ元に戻ろうとします。合った動きが自分の標準になるまでの期間として、6か月を取っています。

編集部

研究チームの皆さん、ありがとうございました。

監修者からのアドバイス

アスリート再生プログラム「リスタート」のロゴ

著者:アスリート再生プログラム「リスタート」

運営:株式会社HUREC

「骨格の個体差」を10年以上研究してきた専門家集団HURECが運営する、プロアスリートのための再生プログラム。長期の怪我、怪我後の不調やスランプ、加齢によるパフォーマンスの低下に対して、個体差にもとづく身体動作の獲得によって、アスリートの可能性を取り戻すことを目的としている。

医療監修 高村武光

医療監修:高村 武光

鍼灸師/連動性シニアトレーナー

現場でお会いする選手の多くは、すでにご自身で相当のことをやってこられています。練習を積み、トレーニングを重ね、フォームも言われたとおりに直してきた。その努力を、私は少しも否定しません。ただ、あの良い時の感覚が戻らないとき、確かめたいのは「もっと頑張れたか」ではなく、「そのやり方は、その人に合っていたのか」です。合わない形をどれだけ丁寧に積み上げても、体は思うようには応えてくれません。量が足りないのではなく、向かっている方向が自分に合っていないだけかもしれない。まずは、自分にとってどの動きが自然なのかを知るところから始めていただきたいと思います。

高校時代に腰椎分離症を経験し、リハビリをきっかけに医療の道へ。森ノ宮医療大学で鍼灸師(国家資格)を取得。サッカー・ソフトボール・テニス・パデルなど複数競技の日本代表を含むアスリートのトレーナーとして活動する一方、変形性股関節症・膝関節症など高齢者の症状にも対応。骨格の個体差にもとづく“連動性トレーニング”を修め、現行最上位資格「連動性シニアトレーナー」に認定される。医療専門職の育成も行う。

研究監修 伊藤龍平

研究監修:伊藤 龍平

株式会社HUREC 代表取締役

医師・理学療法士・鍼灸師、トップアスリート指導者など身体の専門家で構成される研究団体HURECを組織し、10年以上にわたり骨格の個体差(先天的特質)を研究。その研究から「骨格動作タイプ」を16種類に体系化。各種競技のオリンピックアスリート、日本代表選手などからも多くの支持を受ける。

医学監修 烏山司

医学監修:烏山 司

スポーツ内科医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター

スポーツドクターとしてアスリートの内科的サポートに従事し、株式会社HURECの医学顧問を務める。自身も高校時代にソフトテニスでインターハイに出場するなど、スポーツに高い関心を持つ。フルマラソンは2時間34分(市民ランナー上位0.5%)で完走。

よくある質問

Q良い時の感覚を取り戻せない理由は何ですか?

A理由は一つではありません。疲労、回復、心理状態、相手、環境など、複数の要因が関係します。HURECでは、それらに加えて、自分に合った動きを理解できているかという点にも着目しています。外側の条件が偶然自分に合った時だけ良い感覚が出ている場合、相手や環境が変わると、同じ状態を再現しにくくなります。

Q過去と同じフォームに戻せば、良い感覚も戻りますか?

A過去と同じ形を再現するだけで、同じ感覚や結果につながるとは限りません。相手や環境が変われば、必要な調整も変わるためです。外見上のフォームだけでなく、ボール、タイム、出力などの競技指標と照らし合わせて確認することが大切です。

Q全員に共通する正しいフォームはないのですか?

A競技ごとに共有される基本や技術はあります。一方でHURECでは、骨格が異なれば、その人にとって自然な姿勢や力を発揮しやすいフォームも変わると考えています。そのため、一般的な正解をそのまま当てはめるのではなく、自分に合っているかを確認することが大切です。

Q自分に合うフォームやトレーニングは、どう判断しますか?

A感覚だけでなく、競技に直結する指標を使って確認します。テニスであればボールの質、陸上競技であればタイム、出力が重要な競技であれば関連する数値などを見ながら、自分に合うものと合わないものを取捨選択します。リスタートでは、始点判別・力点判別と競技動作の分析から骨格動作タイプを仮判別し、そのタイプにとって自然な姿勢や動きも踏まえて確認します。

まずは、自分の骨格のタイプ
知るところから

「以前のように動けない」「良い時の感覚が戻らない」。今感じている悩みや、これまでの取り組みをうかがい、リスタートで何ができるかをお伝えします。

出典

研究資料
1. Malcata RM, Hopkins WG. Variability of competitive performance of elite athletes: a systematic review. Sports Med. 2014;44(12):1763-1774.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25108349/

2. Kellmann M, et al. Recovery and Performance in Sport: Consensus Statement. Int J Sports Physiol Perform. 2018;13(2):240-245.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29345524/

3. Seifert L, Button C, Davids K. Key properties of expert movement systems in sport: an ecological dynamics perspective. Sports Med. 2013;43(3):167-178.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23329604/

4. Cowin J, et al. A Proposed Framework to Describe Movement Variability within Sporting Tasks: A Scoping Review. Sports Med Open. 2022;8(1):85.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35759128/

5. Sun H, et al. Does mental fatigue affect skilled performance in athletes? A systematic review. PLoS One. 2021;16(10):e0258307.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34648555/

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